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 天日干ししていないのか、布団は湿気を吸っていて薄いけれども重苦しく、それでいて末香くさい。  いったい、どこにしまい込んでいたものなのだろうか。  そもそも、客人にこんな布団で寝ろという宿は失礼であり、そこで敢えて「前祝い」を行うなど、質素倹約もほどがある。  なれど、子守唄のように聞こえてくるチャカチャカ、カチャカチャ、チャンチャカチャンという音はかすかなれども賑やかで、めでたさを離れでひとり逗留する自分にも、わずかながらにおすそ分けしてくれているような、ありがたさは否めない。  余力さえあり、部屋も近ければ厠や風呂に行きがてら、様子を見にいくなんていう真似もできるだろうか、なにしろ私がいま居る部屋は「離れ」であり、ぎしぎしという渡り廊下を歩いて、別棟の二階、その突き当りという、離れというよりは隔離されているような感覚さえ抱いてしまう部屋だ。  逆に、そんな部屋からわざわざ「前祝いとお聞きしまして、旅の縁と申しましょうか、お祝いのひとことでも」なんてやって来られても、宴席にいるものたちは怪しむに違いない。
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