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一人目。青年よ、気をつけろ
とあるカラオケ店の部屋に設置された。
一人で来る者、友達や仲間と来る者、カップルで来る者、家族で来る者、飲み会と様々だ。
一人で来る者には溜まった鬱憤を晴らすように叫んだりする人や、映像を見てアーティスト気分でいる人、失恋でもしたのか突然泣き出す人と更に分岐して見ているのが面白い。
今目の前にいる青年はスマートフォンと睨めっこして、よしっ!とガッツポーズをした。
何かいい事でもあったのだろう。曲を入れマイクを握り歌い始める。
何度か首を傾げ、一人で思考回路を巡らせているように見えるその様子を俺はバッチリ見る。
それから何度か青年は同じ箇所を歌い直したりし、誰かに披露するのか歌の練習を続けた。
何日かして同じ青年がやってきた。
前は一人でよれた服を着ていて、髪も寝癖が酷かったが、今日は比較的綺麗な服で寝癖もなく、同い年ぐらいの女と一緒だ。
女は化粧をし、服もVネックのカーディガンに膝丈のスカートと女性らしい。
「何歌いますかー?」
「最初はメッセージで話してたーー」
二人は知り合ったばかりなのだろう。会話がぎこちなく聞こえる。
メッセージと言っていたので大方SNSか何かで知り合ったのだろう。
二人は楽しそうに歌い始めた。
あぁ、俺が人に持って使われるカメラならこの二人を色んな角度などから撮って、カメラ仲間に自慢出来たのに。
残念ながら俺は防犯カメラ。設置された場所から持って使われる事は少ない。
しかし他のカメラ達は逆に犯罪の瞬間や決定的な瞬間を捉えていて大活躍じゃないか!と褒めてくれる。
結局ないものねだりなのだろう。
その後も二人は楽しそうに歌い続ける。
青年がトイレに行った。女は一人になると先程までの笑顔とは打って変わり、真顔になる。
青年が置いていったバッグをあさり財布を取り出す。一番低い金額のお札を一枚抜き取り自分の財布へしまう。
思わずえ?それだけ?盗むならもっと……何て悪い考えをしてしまった。
青年が戻ってきた。再び女に笑顔が戻り歌唱再開。
三時間ほど、二人が楽しんでいくと二人はそろそろレストラン行こうかと言い荷物を持ち部屋を出る。
青年は気づくだろうか?
俺は見ていたし、女も俺には気づかなかった。
それから幾月、俺が調べられる事はなかった。青年よ気をつけろ。
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