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四人目。私の眼、人の目
私の眼にはいつも景色が収められていた。たまに持ち主、千田陽介の彼女の千尋が額縁に入る事もある。
陽介は足が悪く彼女の千尋に、参考資料にする景色などを私を使って撮ってくるよう頼む。
そして表情の参考として陽介が千尋を撮る。
千田陽介はしがない漫画家だ。
陽介の描く漫画は登場人物は少なく背景描写に力を入れている。そのため売れっ子と言うよりコアなファンに人気と言った感じだ。
「そのカメラももう使ってからだいぶ経つよね」
千尋が私を起動してから言う。私は人間換算だとおじいちゃんおばあちゃんだ。
私の視界に机に向かってペンを走らせる陽介が映る。写真だけでなく私の中にはビデオも保存されている。
たまに見知らぬ人がモデルとして映されたり、私は陽介と千尋のおかげで色んな物や人を見てきた。
正直もうすぐ私の寿命は尽きそうだ。出来れば二人の行く末を見守りたかったが……。
「次はどんな漫画描くの陽介?」
「ん~……、スポーツものを描きたいんだけど、スポーツなんかは自分で体感したいんだが、この足では……」
陽介は自分のふくらはぎをさする。
千尋もしばし黙りわつぃの視界は雑多な床を映す。
今まではファンタジーや恋愛漫画を描いてきた陽介。挑戦したことないジャンルに挑戦するのはいいことだと思う。
「ねぇ、車椅子競技はどう……?」
千尋のその一言で陽介の瞳に輝きが宿り、車椅子競技を描いた漫画を描こう!と意気込んだ。
私は安心した。ふと力が抜け視界が真っ暗になった。
ぼんやりとした状態で眼が覚めると千尋の瞳がアップで見えた。
「良かった。故障したかと思った……」
ぼそりとつぶやく。
ビデオに切り替え私の視界に車椅子でテニスをする陽介の姿が映る。時々写真でいい感じのポーズも撮影。
陽介がスポーツ好きなのかは知らないが、なんだか生き生きして見えた。
私は私の中の部品が悲鳴を上げるのを聞きながら、陽介の生き生きとした姿を映し役目を終えた。
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