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「お父さん!
落ち着いてよ!」
私の口から言葉が衝いて出た。
泣きたいのは、やり場のない怒りを誰かにぶつけたいのは、父だけじゃない。
私の声で、多少なりとも冷静さを取り戻した父は、
「・・すみません。」
そう言って再度椅子に着いた。
父のその様子を見て、穏やかに主治医は言葉を続けた。
「お気持ちはわかります。
大切な人だからこそ、有限の時間を大切にしていただきたいのです。」
その後、どれくらいの沈黙の時間があったのか、正直覚えていない。
ただ、主治医からの説明では、残された時間はあと僅かであること、残された時間を自宅で穏やかに過ごしてもらうために、主治医が信頼する看護師を毎日訪問させることの説明があった。
さらにいくらかの沈黙の時間の後で、
「先生、妻には告知はしないでやってください。
あいつ、人前で泣けない奴なので、きっと気丈に振る舞って最期まで無理すると思うので・・」
そう、父は言った。
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