優しさの形

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 それから数日経って、母が退院する日が来た。 ソメイヨシノは小さな蕾ばかりで、まだ咲く気配はなかったけど、今から生まれようとするその様子が憎たらしくて仕方がなかった。 父は手続きを済ませて、それから母を車に乗せている間、私は入院中に使っていた荷物を車に運んだ。 母は、 「やっと退院できる。 もう病院生活はイヤ。」 そう言って、痩せ細った自らの身体を両腕で抱え込んでいた。 間もなく自宅についたけど、体力が落ちて車に揺られるだけでも疲労を感じていた母は、リビングに用意したリクライニングベッドの上ですぐに眠り始めたのだけど、それからいくらも経たないうちに、ドアベルが鳴った。 約束の時間通りだ。 「こんにちは。 はじめまして。 主治医から依頼を受けまして、お母様を担当することになりました、看護師の○○と言います。」 そう言って、玄関先で名刺を渡してくれたのは、男性の看護師だった。
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