優しさの形

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彼は、聴診器や血圧計やらを使用して、母のバイタルサイン(生命徴候)をみていた。 それから、退院時に処方された薬を整理して、間違いのないように服用出来るようにして、緊急時の連絡先を父に伝えていた。 私自身、最初はそこまで気にせずに、なんとかなると思っていた私たちだったけど、問題はその夜にすぐに訪れた。 母は鎮痛剤を服用しても全身の痛みが治まらず、その後は食事も水も喉を通らなかったのだった。 真夜中になって、そんな母を見るに見かねていた父は、彼に電話をした。 すると、彼は三十分も経たないうちに家に来て、母の様子を看て、痛みと共に脱水兆候が見られることから、電話先の医師の指示に基づいて、左腕の血管から点滴治療を開始していた。 彼の声は、常に穏やかでとても優しかった。 点滴治療が終わって、痛みが和らいだのか、母が寝息を立て始めた頃に彼は静かに父に挨拶してから帰っていった。
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