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オファーが来てるという連絡があった。
「…オファーてなんですか?」下の階から聞こえてくるビート、揃う足音。
「ああ、」主幹が手招きするこっちへの合図。
隣の部屋、狭くてソファーだけある部屋。言おうかどうしようか迷ったけど口に出した。
「僕、辞めます。」「うん、話は聞いた。でもまぁ座って。」
僕は立ったままで、主幹は
僕の向かいに座って言った。「まずaj24プロのことだけど、」
それは"最後の仕事"。僕がこの"仕事"そのものをもう辞めようと思った"仕事"。
「あれは悪かった。こちら側で完全に行き違いがあった。それで、」
やめてください。泣きそうになるから。僕は黙ってた。
「このオファー、実はaj24プロが君にと回してきた。」
知らない。そんなことは知らない。
「向こうも気にしてる。…現場でいろいろあったんだろうけど赦してやってくれ。」
「…僕、もう辞めるんです。」
うーん、と主幹はソファーに深く座り直した。
「君がもうタレントしない、は君の自由なんだけど。…最後の仕事があれじゃ哀しくないか?もう一回、」
僕にはなにも言えない。哀しいとかそんなの選べたのかな。
「…そうだな。」
僕が黙ってるから主幹は独りで呟きだした。
君が辞めると聞いて、哀しくなったのは俺の方だ。…ほんとにすまなかった。ロクな仕事を取れなかった。すまなかった、長い長い時間を、それも一番貴重な時間を、預けてくれたのに。ありがとう。ありがとう。そして、すまない。何にも代えてやれなかった。
すまなかった。
僕は子役だった。始まりは一才くらいから。もちろん親の意向だ。ガヤでモブの子役。ちょこちょこってきて、ワケわかってないまま撮って、はい終わり。
僕はそれで良かった。撮影のときだけあう子達とかはだんだん遠い親戚みたいな感じで。仕事だよ、て聞いたら、あの子達もいるかな?て。いたらスゴい嬉しくて。僕は"学校"が全然うまく出来なくて、トモダチもいなくて、ナニもなくて。だから"仕事"が嬉しかった。スゴく嬉しかった。でも…。
僕は年を取った。
僕は成長したにならなかった。僕は年を取ったになった。それが何故かは僕にはわからない。わからなかった。
帰ります。そういって事務所を出る。これ渡しておくよと主幹がくれたのは、オファーの内容が書かれた用紙。受けるなら君が個人でとなるから、君の自由にしたらいい。そういって渡された畳まれたままのその紙をそのままポケットにいれた。その時にくしゃくしゃって丸めて棄てなかったのは何故だろう。後で考えたけどわかんなかった。
電話が鳴ったので出た。
「Aj24プロです。」僕は凍りついた。ドキドキしながら聞いた、僕の顔はきっとゾンビみたいになってただろう。
「こないだのオファーの件なんですけど、クライアントさんが返事お待ちなんで直接電話してもらえますか?あ、断ってもらっても全然構わないんですぅ。」何て言って切ったかは覚えてない。
でも僕は電話をかけた。教えてもらった番号に。
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