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序章 出会い
時は江戸。ここは将軍のお膝元。雨が降りしきる中、一人の男が橋の下に入って、雨宿りをしている。
歳は十五ほどと若いが、背が高い。切れ長の吊り上がった目をしていて、端正な顔つきをしている。目は黒だ。漆黒の髪を後ろでひとつに括り、砂埃に塗れた黒の着物を着ていて、草履を履いている。背中には風呂敷に包んだ荷物を背負っている。右腰には刀を帯びている。
彼の名は、幻鷲霊斬。
しばらくすると、一人の少女が、雨の中、駆け込んできた。
彼女が着ていた青い小袖が目を惹いた。
少し垂れ目の目も可愛いと思った。
霊斬ほどではないが、整った顔をしている少女だった。
「凄い雨だねぇ」
霊斬は少女の呟きが聞こえていたので、うなずいた。
「あなたは、旅の人? 名は、なんて言うの?」
少女は霊斬を見つめて言った。
「ああ。霊斬、という」
疑いの目を向けつつも、霊斬はぼそっと答えた。
「私は、奏。男みたいな名でしょう?」
奏が言いながら笑う。
「そんなことはない」
霊斬は言いながら、首を横に振った。
「あなたは……刀を持っているし、どこかの武家の人?」
「俺は武人だ。だが、武家は大嫌いだ」
霊斬は雨が打ちつける地面を見ながら、言い放った。
「どうして?」
奏は首をかしげた。
その言葉には、悪意がなく、とても純粋な問いかけだった。
「俺のことを見てくれる人は、片手で足りるほどしかいない。いないよりはましだが。……ちょっと待て」
霊斬は奏に近づきながら言った。
奏はきょとんとしている。
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