一 暗黒への回帰。

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一 暗黒への回帰。

 地鳴りのような音が、俺にあの時の気持ちを蘇らせる。  全てを飲み込む轟音と、踏みしめていたはずの大地が崩壊し、どこまでも落ちていく感覚。  あとに残るのは耳鳴りのようにくり返すこの地鳴りだけだ。  全く、あの時と同じだった。 「誰か……いますか……? 誰か……」  断続的に響く地鳴りに支配された俺の静寂を、微かな声が破った。消え入りそうな、か細い声。 「誰か……助けて……」  まだ子供の声だ。女の子。小学生くらいだろうか。  上ずっているせいもあるのだろう、かなり高めの声だ。いわゆる「鈴を転がすような声」というやつだろう。無邪気に笑うのが良く似合いそうな、保護欲をかき立てずにはおかない声。俺を一番苛立たせる声だ。  言葉はしっかりしているが、声に不安があふれ出ていた。ガキなら大声で泣き叫びそうなものだが、そうでないのが不自然だった。  だが、そんなことは俺には関係ない。  俺は全く何も見えない闇の中、ゆっくりと立ち上がった。  その声の主を助けるためじゃない。遠ざかるためだ。  断続的に起きる、何かが崩壊するような轟音より、微かに響く子供の声のほうがはるかに五月蝿かった。煩わしかった。邪魔だった。  俺には、奈落の底へ落ちるような崩壊音の方が、親しみを感じる昔なじみのようなものだったのだ。  助けが現れないと知ったその子の声が静かな泣き声に変わるのを聞きながら、俺は手に触れる壁づたいに、より静かな闇を求めた。  どうしてこんな事になったのだろう……? そんな愚かな質問は浮かばなかった。  当たり前だ。こういう事は何の理由もなく、突然やって来るに決まっているのだから。  そして、巻き込んだ者の全てを、否応なく奪い去っていくものだから。
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