十六 戦いの終わり。

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 智美は悲鳴交じりに大榊の名を呼んだ。パニックに陥っていた。呼吸をしているのか、体温は。楽な姿勢を取らせるべきではないのか。様々な思考がぐるぐると回る。が、智美は頼造に手を伸ばすことができなかった。 「倉科さん、どうしました!」 「香川さんが……倒れてて……意識も……ないみたいで……」  智美の悲鳴交じりの声がそれぞれのコクピットに響く。 「頼造おじさんが……? 智美さん、頼造おじさんはどんな状況なんですか?」  華夕の口調はいつも通りだったが、声は明らかに冷静さを失っていだ。 「わかんない……わかんない……」  頼造はピクリとも動かない。智美は恐怖に囚われてシートに座り込み、頭を抱えた。 「智美ちゃん、落ち着いて! 香川さんl 聞こえますか? 返事をしてください! 智美ちゃん、香川さんの脈とかとれる?」  瀬里奈の言葉も智美の耳には届かない。 「……急いで帰投する。今野さん、先行して医療隊の要請をしてもらえますか?」  大榊はヘリの機速を最大に上げさせた。 「わかりました」  華夕の【T3-2】が速度を上げ、飛び去って行く。【トライアイン】の最高速度はさらに上を行くものだったが、智美は操縦できる状態ではない。追尾対象を【T3-2】に変更する事も無理だろう。大榊はそう判断し、基地到着後の処理について考えを巡らせていた。
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