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「勇夫君、ちょっと」
ドアの前で手招きしているのは、金富だ。
「金富さん」
勇夫が立ち上がる。
智美はすがるような目つきで勇夫を見上げた。嫌な予感がした。
頼造が倒れ、勇夫までいなくなってしまうのではないか――そんな予感に、智美の身体は震えた。
勇夫の手を握ったまま、離すことができない。
「倉科、大丈夫……?」
勇夫は優しく、つないだ手に力を込めた。そして、智美の頭にそっと手を乗せた。
「行ってくるね」
智美は、ゆっくりと手を離した。
「あぁ、瀬里奈さんも御同行願います」
勇夫と瀬里奈は、金富に伴われて待合室を出た。ドアが閉まる瞬間、勇夫は待合室を振り返った。智美と華夕、不安そうな二人の少女の姿が勇夫の心に焼き付けられた。
不安な中にも顔を上げている華夕とうつむいてしまっている智美。二人のその違いが、印象に残った。
「勇夫君、瀬里奈さん。これからあなた方に、会ってもらわなければならない人達がいます」
勇夫と瀬里奈を伴って早足で歩きながら、金富は二人を振り返ることなく淡々と話した。
「我々としては非常に不本意だし、屈辱的でもあるんですが」
金富の、いつもと違う空気に、勇夫と瀬里奈は顔を見合わせた。大体の事は予想がついていた。
「……わかっているかも知れませんが、あなた方に会いに来ているのは、警察です」
予想がついていたとはいえ、勇夫は目の前が暗くなるのを感じでいた。
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