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強烈な光が俺の眼を焼いていた。まぶしかった。
濡れた芝生が日光を反射して輝く光。
雲ひとつない真っ青な空から降り注ぐ真夏の日光。
庭の中央では、二人の女の子が、父親の撒いている水にはしゃぎまわっている。虹をまといながら笑うその顔、その声も、たまらなくまぶしかった。
小学生くらいに見える姉妹。俺に妹がいたらこのくらいの年頃だろうか。
そんな思いが頭をよぎり、俺は吐き気を覚えた。黄水がこみ上げてくるのを堪え、まぶしい庭に背を向ける。
庭の外にいる俺とは所属する世界が、次元が違うのだと思い知らされた。このまぶしい世界は、完全に俺を拒絶していた。
俺は光の世界から逃げるように走り出した。全速で暗い裏路地を求めて走った。じめじめした薄暗い路地に駆け込んだ俺は、堪えていた吐き気に身を任せ、泡の混じった胃液を吐いた。血が混じって鮮やかなオレンジ色の胃液。涙と鼻水を垂れ流しながら、俺は空えずきを止めることが出来なかった。
目もくらむような光の世界。それは俺が所属した事もない世界だった。
俺がそれまで存在していた世界は光の世界ではなかったのだ。薄暗い、影のような世界。俺が生きていたのは、そんな世界だった。
だが、そんな世界ですら、光を持った世界だった事をすぐに思い知らされる。
しかも、それを失った時、取り返しがつかなくなった時に。
それが、俺の始まりであり、終わりだった。
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