二 廃墟への脱出。

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 これは格納庫だ。  直感的に悟った。  今までに写真で見たどんな格納庫とも全然違う。  旅客機、ステルス機、ヘリ、飛行船……。  そのどれとも全く似ていないのに、これが格納庫であるという事は、俺にとって確定事項だった。  先に入ったはずの二人、その気配はなかった。足跡はそれほど古いものではなかったはずだ。ここから先のエリアがあるという事なのか。それともここから突然消え失せた、つまり消え失せる事ができるという事か。  俺は急に興味を持って床に残った足跡をたどり始めた。  足跡は薄くなっていたが、初動の方向さえわかれば辿るのは困難ではない。二人は格納庫の中央にある、奇妙な形状の機体に向かっていた。  見たこともない形状だった。設計思想そのものが異なるのだ。機体の強度と装備の重量、それと推力、揚力をどうバランスさせるか。この永遠の命題とも言える課題について、全く考慮されていないように見える。空力特性など完全に無視したようなフォルム。しかも四機ある機体のそれぞれが違った形をしていた。大筋の設計思想は共通しているようだが、細部は全く違うと言っても良かった。  四機で全てではないようだった。横一列に並んだ三機と、右端の機体の前にもう一機。六機が前後二列に並んでいたのだろう。  足跡の二人が乗り込み、持ち去ったという事か。  俺は前列の残り一機に近づいた。  機体側面に回ると、予想通りハッチのようなものがあり、開閉用と思われるパネルがあった。認証用のカードキーなどはもちろん持っていない。  ダメもとでパネルに右手を当てる。音もなくハッチが開いた。  指紋や手の静脈認証方式なのだろう。しかもまだ誰も登録されておらず、登録待ち状態だったようだ。  これは相当な奇跡だ。となると、先の足跡の二人も正規のパイロットではなかった可能性が高い。  素人でも、ここを脱出する程度には扱えるものなのだろう。  コクピットは単座式だった。  遠慮なくシートに座る。シートベルトを締めると、機体に火が入り、システムが起動した。  シートの周囲は全てモニターになっており、機体の周りを映し出した。まるでシートごと宙に浮いている感覚だ。  メインコンソールに起動完了のメッセージと、パイロット登録完了のメッセージが表示された。  つまり、この機体のパイロットとして俺が登録されたという事だ。それがどういう意味を持つことになるのか。  俺にとっての「未来」という時制を作り出すことになるとは到底思えなかったが、少なくとも俺の「興味」という感情を刺激している事は確かなようだ。  ただ、その「興味」も「自分がこれからどうなるのか」ではなく「この機体は一体何に使うものなのか」であったが。
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