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一 告白未遂。
遠雷……。
地上から時折響いてくる遠雷の音に、俺達は闇の中、身をすくませていた。
音が近づけば身じろぎし、音が遠ざかれば安堵の吐息を漏らし……。
闇は、永遠に晴れないと思わせる力を持っていた。
僅かな光源すらない真の闇。目が慣れる事もないこの闇の中で、分かるのは、すぐそばにいる倉科の息づかいと、握っている手のぬくもりだけだ。
遠くの方からかすかに聞こえていた女の子らしい声も、もう聞こえなくなっていた。
今は倉科だけが、確かな存在感を持っていた。
「速水くん、いるよね……?」
探るように、おそるおそる発せられた声。不安と恐怖で震えていた。握った手に力がこもる。言葉で生存を確認しないと、不安でいられないのだろう。
「うん、ここにいる」
倉科を安心させたくて、声の震えを圧殺する。そして、強く手を握り返した。倉科はすがりつくように、両手で俺の手をつかんだ。俺の中にあった恐怖感が薄らいでいく。倉科を守りたいという気持ちが、恐怖心を圧倒していくのがはっきりと感じられた。
「……ったく、一体何があったって言うんだ……?」
「わかんない……あたしにもわかんないよ……」
倉科の声が感情的に上ずってきていた。俺の存在を確認して、安心したのだろう。俺という受け手の存在が、感情の抑制を弱めたのだ。
それにしても、何でこんな事になったのだろう。俺達が一体何をしたと言うんだ……?
あの時、俺は、倉科に想いを伝えたかっただけなのに……。
俺の名前は速水勇夫。都内に住む高校二年生だ。得意教科は体育だけの帰宅部。つまり、とりたてて変わったところのないフツーの高校生というわけ。
今日……。つい数時間前、俺は一世一代の勝負に出たのだった。
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