一 絶望からの転落。

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一 絶望からの転落。

 薄々気付いてはいました。  いや、はっきり確信していたと言ってもいいかも知れません。  だからそれが現実として目の前に現れた時も、驚きはありませんでした。やっぱり来たか、とうとう来たか、と。  驚きはない代わりに、あらゆるものに対しての深い失望と、実際これからどうするべきかという、あまりにも重い問題が私を押しつぶそうとしていました。  事実上の解雇通告。  私が立ち上げ、軌道に乗せた様々なプロジェクト。そこから何かと理由をつけて次々と排除されていく間、このような結末になる事には薄々気付いていたのに。私は転職の準備をするより、なんとかこの会社で正当に評価されるよう力を尽くしていたのでした。  後の祭り、と言うのは簡単です。でも、そうはいかない事情もありました。妻と娘に苦労をかける事は何としても避けたかったのです。すぐにでも次の職を探さなくてはなりませんでした。  翌日から、いつもの時間に家を出て職探しをし、いつもの時間に帰る、という生活が始まりました。  しかし、46歳という年齢で新たに職を探すというのは簡単ではありませんでした。面接を受けさせてもらえる事も稀、面接までいっても前職を辞めた理由を聞かれると答えに窮してしまい……。すぐにでも再就職をしなければならないという焦りの中、時間はあっという間に過ぎ去っていきました。  そして……、私が命を絶とうと決意する事になる、今日という日が来たのです。  すでに、職業斡旋機構で見つかる企業は断られたところばかりになっていて、公園で時間を潰しながら、就職情報誌をチェックするだけの日が続いていました。  いつもと同じように帰宅時間まで時間を潰して家に帰ると、家に明かりは灯っていませんでした。 「ただいま」  そう声をかけると、祈るような気持ちで「おかえりなさい」の声を求め、心臓の音が大きくなるのを感じながらリビングへ。暗いリビングのテーブルの上には、一枚の紙が置いてありました。  妻の署名捺印済み離婚届。すーっと首筋が寒くなっていく感覚。  妻は私が解雇されたことを知っていたのでした。会社から妻へ連絡が入ったのでしょう。それで離婚届を準備していたのに違いありません。最後の給料と退職金が振り込まれる今日まで待っての離婚届というわけです。  私は呆然と立ち尽くすのみでした。耳の奥でキーンという音が鳴り響いていました。
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