一 告白未遂。

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「あ、倉科、今日部活終わった後、空いてる?」  校舎の西階段で、偶然を装って、俺はクラスメートの倉科智美に声をかけた。偶然であるはずがない。美術部の倉科が、美術室へ行くためにこの階段を通ることなんて簡単に予想がつくのだ。 「うん、空いてるけど、どうしたの?」  倉科は屈託なく聞き返してきた。そのあまりの素直さに、俺の鼓動はさらに跳ね上がる。 「い、いや、ちょっと前から言おうと……思ってた事があってさ」  どぎまぎして言いよどむ俺。 「今平気だよ?」 「いやっ! えっと、その、もちょっとちゃんとした感じで言いたい事だからさ、 ……倉科が部活終わったら! ちょっといい感じの喫茶店があるからそこに行こう! そこで話すから!」  また間髪入れずに直球を返してくる倉科に、一瞬パニックになった俺はマヌケな返事を返してしまった。 「え……? あ……」  何かを察したのか、倉科は一瞬目を伏せ、何かを言いかける。 「い、イヤだったら、別にい、いいんだけどさ! と、とにかく倉科の部活終わんの、待ってっから!」  俺は倉科の言葉を遮るようにそう言って、逃げるように階段を駆け下りた。  こんなんじゃ、相当鈍いやつでも何の用かわかっちまうよなぁ……。  俺、多分顔そーとー赤くなってただろうし……。  ……でも、倉科は来てくれた。  もし、俺の気持ちがばれてるんだとしたら……来てくれたって事は……。 「へぇ~、言うだけあっておしゃれなお店だね。 速水くんがこういうお店知ってるってちょっと意外だったけど」  店内を見回して、倉科は少しはしゃいでいるようだった。まず店選びのセンスは合格、といったところだろうか。こういうのに詳しい姉貴に、一個1200円の高級プリンで情報を売ってもらったのはやはり正解だった。 「お、おぅ……。いい、感じだろ?」  心の中で姉貴に最大限の御礼を申し上げ、倉科を空いているテーブルへ誘う。  店内には数組の客が、静かにお茶を楽しんでいた。
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