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「うん! ほんといいお店だね」
椅子やテーブルといった調度もアンティークな雰囲気が漂っていて、それだけでいい気分になってしまう空気だ。
「こ、紅茶の専門店なんだぜ、珍しいよな。
……なん、だよな?」
やっぱり倉科と向かい合って座ると気分がテンパってくる。口の中がからからになって、俺は運ばれてきたお冷を一息で飲み干してしまった。
「あ、うん、珈琲の専門店は結構見かけるけど、紅茶のは珍しいかも」
「だよな、だよなぁ~」
なかなか本題を切り出せない。でも、まぁオーダーを取りに来た後がいいだろう。いや、紅茶が来てからの方がいいよな、やっぱり。
「で……速水くん、話したい事って……?」
そんな事をぐるぐる考えていたら、倉科はズバッと本題に切り込んできた。
俺は生唾を飲み込んだ。もう逃げ場はない。
「んっ!? あ、あの、あのさ……。
倉科って……つきあってるやつとか、いんの……?」
一旦言葉を切り、息を吸ってそう切り出す。
「いないけど……なんで?」
「あ、そ、そのいや……」
心臓が破裂しそうに鼓動している。耳で聞こえそうだ。喉がからからだ。でも水は飲み干してしまっている。もう覚悟を決めるしかない。
「く、倉科、つきあってるやつ、いないん、ならさ……あの……」
その時だった。
轟音が響いて俺達の頭の中をかき回した。
自分の体が吹き飛んで、上にあるのか下にあるのか、何もかもが分からなくなっていた。
轟音の中で、倉科の悲鳴を聞いた気がした。
力いっぱい倉科の名前を呼んだが、それも単なる悲鳴にしかならなかったかもしれない。
全力で声を出しても、自分の耳にすら全く届かない。
ありとあらゆる衝撃が全身を襲い、痛みがあるのかどうかすら判然としなかった。
そして、永遠に続くかと思ったその轟音と衝撃が収まった時、俺達は暗闇の中にいた。
ただ一つ。気づいた時、俺はしっかりと、倉科の手を握りしめていた。
それが全ての終わり。そして、始まりだった。
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