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二 光を求めて。
「ねぇ、速水くん……ここ、喫茶店、だよね……? あたし、何も見えない……」
「どうだろ……? なんでこんなに……暗いんだ……?」
さっきまでいた喫茶店。すっかり忘れてしまっていた。あの気持ちが安らぐ、アンティーク調の紅茶専門店。でも、それは遠い昔のことだったような気さえする。今の現実は、暗闇と手のぬくもり、それしかない。唐突だが絶対的な状況の変化に、こうしているのが当たり前のような、昔からこうだったような、妙な錯覚さえおぼえ始めていた。
「そっか、速水くんも見えないんだね、あたしの目が見えなくなった訳じゃ……ないんだ」
確かにこれほどの闇は経験したことがなかった。どんなに目を凝らしても、何も見えない。目を開いたり閉じたりしてみても、変化は全くない。今自分が目を開けているのかさえもわからなくなってくるのだ。倉科が、目が見えなくなったのではないかと心配するのも無理はなかった。
「夜中でも、目が慣れれば月とか星とかの光で物が見えるんだ。もしかしたら……」
「え……?」
倉科の声に恐怖にも似た不安の声音が混じる。
「もしかしたら、俺達、地下に閉じこめられちまってるのかも……」
目がつぶれたのでなければ、そう考える他はなかった。光源のない世界なんて、俺の頭ではそれしか思いつかない。
「なんで? なんで喫茶店にいたのに、地下に……」
「そんな事、俺にもわかんねえよ……!」
そうだ、そんな事わかるわけない。あの轟音がなんだったのか。地球が崩壊するかのようなあの衝撃がなんだったのか。
大地震……? 戦争……?
いくつかの考えが頭をよぎったが、正解なんか見つかるわけがなかった。
「……とにかく、なんとかして帰らなきゃ……。
倉科、立てるか?」
「わかんない……。怖いよ、速水くん……。怖い……。怖い……。お母さん……」
倉科の手が冷たく震えていた。恐怖に心を掴まれ、パニックを起こしかけている。呼吸が浅く、速くなっているのがはっきりとわかった。俺は倉科の手を両手で包み込むように握り締めた。
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