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「倉科! しっかりしろ!」
突然の大声に、倉科は小さく悲鳴を上げた。が、それをきっかけに呼吸が少し落ち着いてくる。
「……大丈夫だから! 絶対帰れるから!」
握り締めた手を揺さぶるようにして、俺は言葉を続けた。倉科の心に、言葉を押し込むように。
「だって……」
「絶対に俺が倉科を連れて帰るから!
……ゆっくり、立てるか……?」
倉科の左手が離れて行き、右手で俺を引っ張るようにして、倉科がゆっくりと立ち上がるのが伝わってきた。
「う……ん……。た、立てた……。」
「よし……。壁伝いに歩こう。迷路だってこうやってれば出口に必ずたどり着くんだ。
……俺の手、離すなよ?」
「……うん」
俺の言葉は気休めにすぎなかった。
どんな迷路でも抜けられる方法。それは出口がある事が前提だから。
俺なんかより頭のいい倉科がそれに気づいてない訳がない。
でも、その倉科が俺を信頼して付いてきてくれている、その事実と、左手に握りしめた倉科の手の温もりが、恐怖におかしくなりそうな俺の心をつなぎ止めていた。
神経の集中した指先は、視覚をさえぎられたこの状況で、想像以上の情報をもたらしてくれる。壁をなぞる指が、ここが洞窟のような自然の空間ではなく、人工的に作られた空間であることを教えてくれていた。
亀裂や崩れのための凹凸は存在するが、明らかに平面として「作られた」壁。
つまり、ここは地下施設、ということだ。
俺たちが入った喫茶店は、地下街のあるエリアではなかったはずだ。何のために作られた地下施設なんだ……?
俺たちがここに落とされることになったのは、一体何が原因なんだ? 地震? 地盤沈下?
全てが謎だった。全てが想像の範囲を超えていた。全てが闇に包まれていた。
何も見えない闇の中、俺は左手の温もりに支えられ、右手のひんやりした壁の感触を頼りに、外の世界を求めて歩き続けた。
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