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暗闇の世界は思ったよりも歩きづらい。
足元には瓦礫と思しき障害物。大きいもの、小さいもの、固いもの、やわらかいもの……。
すり足で障害物を探りながら歩く。右手で触れている壁も崩れているため、いつとがった物が指を傷つけるかわからない。目の前が何も見えないから、何かが突然顔にぶつかって来るかもしれないのが恐ろしかった。しかし、右手は壁、左手は倉科の手を握っているから前方を探ることはできない。自然、俺たちの歩速は、電池の切れ掛かった歩行ロボットよりも遅々としたものになっていた。
全神経は周囲を探ることに集中し、極限まで尖っていた。言葉を発する事もせず、隣で必死に歩いている倉科の息遣いがはっきりと感じられる。時折小さな悲鳴が混じるその息遣いは、俺にとってこの闇の中で唯一の「敵ではないもの」「愛しいもの」だった。
どれくらい歩いただろう。暗闇は俺たちから時間の感覚さえ奪っていた。何時間も歩いていたような気もするし、実は数分しか歩いていないのかもしれない。
だが、遠雷のように響いていた崩壊音は少しずつおさまり始めているようだった。
「速水くん、あれ……」
そっと、探るような倉科の声が響いた。どれくらいの声を出せばいいかわからないという響きだ。それは俺も同じだった。
「ん……? あ……」
思わず間抜けな声を出す。
「うっすらと……、なんか見えない……?」
何の事を言っているのかさっぱりわからなかった。倉科が何かを指差していたところで、この真の闇の中では見えるわけもない。俺の位置からは見えないだけなのか……?
ゆっくりと上体を左に、倉科のほうへ傾けていく。
目の前にあった何かの向こうに、微かに、ぼうっと光が見えた。そのままじっと見つめると、やがてその光の正体が掴めて来た。
「うん。確かに……。あそこ、微かに光が当たってるんだ……!」
直接光源から光が当たっているわけではないらしい。何かに当たって反射した光が当たって……という雰囲気だ。しかし、光源があると言う事は、まだ生きている設備があるか、外に繋がっているという事だ。人だっているかも知れない。俺は目の前にあった壁を避け、倉科の手を引いた。
「倉科、行くぞ!」
「うんっ!」
俺達の声は期待に弾んでいだ。
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