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三 地獄からの脱出。
光が当たっていた壁は、廊下の曲がり角になっていた。角を曲がると、通路には微かな光があった。走り出したい気持ちを抑えて、足下を探り探りゆっくりと進んでいく。
障害物の多いその空間。だが、微かにでも視覚が使えるのは大きな助けになった。
通路の突き当たり、左から光が来ていた。ドアの外れた部屋の入り口だ。光源に近づくにつれて、周囲の様子がはっきりしてきていた。
電源の落ちている、死んだモニタ。コンソールパネル。あるものは倒れ、割れ、またあるものは設置されたままに並んでいた。そのモニタの一つが、奇跡的にスクリーンセイバーを表示していた。光源はこれだったのだ。
「病院……かなんか、かな……?」
「良くわかんないな……。何かの施設みたいだけど……。」
倉科の声は震えていた。無理もない。見えて来るというのはいい事ばかりではなかったのだ。
歩き始めてから頻繁に踏みつける柔らかい感触。
薄々分かっていたその正体を目で確認してしまうのは気が狂いそうな経験だった。
「施設なら……出口、あるよね、絶対……」
倉科は悲鳴も上げることもなく、気丈にそう言った。
絶対に守らなきゃならない。
俺の心に、力がみなぎってくるのを感じた。
「うん、絶対に見つけてみせる。
……ほら、あそこに扉、見えるだろ? あそこから出られるかも知れない」
「うん……」
部屋の反対側の扉。窓もなく、頑丈そうな扉だった。
俺達がその扉を開けようと手をかけると、その扉は呆気なく外れ、倒れてきた。
「うわっ!!」
慌てて倒れてくる扉をよける。すると、今度は目を焼かれるような強烈な光に包まれた。
「きゃあっ!!」
たて続く俺達の悲鳴、扉が倒れ、コンソールを破壊する音。
目をつぶり、倉科をかばうように抱き、静まるのを待つ。
「……っく……、暗闇に目が慣れきっちまってたから……」
ゆっくりと目を開ける。目の前には、汗と埃で汚れてしまってはいるが、それでも可愛らしさを全く失っていない倉科の顔があった。恐怖は残っていても、静けさと光が戻ってきた事が、彼女を安心させているのがわかる。
「でも、ここは、電気とか生きてるんだね……」
倉科は俺からそっと身体を離しながら、外れた扉の中を覗き込む。中は別世界のように明るかった。
「そうみたいだな。ますます帰れるのが確実になってきたぞ!」
「うん!」
倉科は、汚れた顔で、輝くように笑った。
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