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カラリと晴れ渡った高い空の下、魚の群れにも似た雑多な人々が気忙しく交差点を移動していく。乱立する野外広告の隙間を通ってくる空気がビル風となって人々の間を吹き抜けていく。
黒いマントが風に翻ってバサバサと音を立てた。
黒い尖り帽に黒いマント、黒いブーツを履いた全身黒ずくめの老人が交差点に立っていた。
その異様な雰囲気にも周りの人達の殆どは見て見ぬ振りをして歩き去って行く。
仕事、勉学、快楽、手元にある便利な情報交換ツール、それぞれ目前にあるものに忙しい現代人にはそんな老人の姿は視界の片隅にすら入っていない様だった。
ごく稀に老人を見て驚愕のあまり足を止める者がいる。
しかし彼らが特別という訳では無い。誰にでもちょっと足を踏み外す事くらいあるのだ。心の隙間にさっと黒いものが吹き抜けた時、普段は気にならない何かを見つけてしまう……。
彼らは老人のその深いシワの奥に何を見たのだろうか。
老人は彼らの耳元で小さく囁くだけだ……。
今日も交差点ではごくありふれた日常の風景が繰り広げられていく……。
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