推しメン。

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あいりんが卒業してぷてミニは5人になった。そして俺も司も気づけば高校生になっていた。あいりんというエースの卒業はやはりそれなりに大きかったようでぷてミニの人気は少しずつ落ち始め、ライブのチケットも売れ残るようになっていた。 「前はチケットなんかすぐに完売していたのに」 あるとき小松さんがそう言った。ライブだけではない、握手会に行っても来ている人が前よりも明らかに少なくなっていた。そして俺はライブのときに、後ろにいた人達の会話を偶然耳にした。 「やっぱりあの3人じゃないとぷてミニって感じがしないよな。」 「それに新メンバーがちょっといまいちなんだよな。華がないというか。」 「あぁ。なんであんな冴えない子達が入ってきたんだろ…」 ぷてミニの人気はとにかく落ちる一方で、とうとうぷてミニのライブ会場は、どこにでもあるような普通のライブハウスになってしまった。どうやら事務所から全国のライブハウスを巡ることで実践経験を積み実力を磨くようにと指示されたらしい。大手事務所の人気アイドルが普通のライブハウスでライブ…これはきっと本人達にとってはかなりプライドを傷つけられた出来事だったと思う。俺は、学校の休みを利用して何度かぷてミニのライブハウスでのライブを見に行った。普通のライブハウスだったから普段の大会場でのライブよりも彼女達との距離は当然近かった。近くで見たりなちゅんはやっぱり可愛いくてキラキラしていた。今のこの状況はりなちゅんにとっても絶対辛いはずなのにりなちゅんは飛び切りの笑顔でステージに立っていた。あぁ、やっぱり何があってもりなちゅんはりなちゅんなんだ。俺はそう思った。でも、俺が中学生から高校生に成長したようにりなちゅんもまたどこか大人っぽくなっていた。人も環境も変わるもので一定ということはまずない。人気アイドルだったぷてミニは今手を伸ばせば届きそうなくらい近くで踊っている。あまりの環境の変化にきっとりなちゅんも戸惑っているはずだ。辛いはずだ。どうか今のりなちゅんからこれ以上笑顔を奪うようなことがありませんように。俺はそう思いながらそのときのぷてミニを応援した。  ある日、ちょっとした事件が起こった。それはファンクラブ会員限定のグッズ販売のときだった。数人の20代くらいの男が集まって何やら騒いでいた. 「何やっているんだ!」 近くにいた40代くらいのおじさんが若者達に注意した。そしておじさんが若者達の間に割って入るとなんと若者達は2期メンバー達のポスターをハサミで切り刻んでいたのだ。 「よくもこんなことを」 おじさんは若者達を怒鳴った。 「だって俺らが好きなのは、りなちゅん、はーちゃん、あいりんの3人のぷてミニなんだ!はっきりいって新メンバーなんかいらないよ!」 「そうだ!そうだ!俺らは、あの3人が好きだったんだ!おじさんだってそうだろう?やっぱりあの3人が輝いて見えただろ?」 写真を切り刻んでいた若者達は口を揃えて言った。 「たしかにあの3人は輝いていた。でも、だからといってこんなことするのは…」 おじさんは若者達を説得する言葉を思いつかなかったのか、とても困った顔をしていた。おじさんにもわかるのだろう。若者達の気持ちが。りなちゅん、はーちゃん、あいりんの3人は確かにキラキラしていた。確かに新メンバーを加えた今のぷてミニは何か物足りないかもしれない…でも…でも… 「それは違うよ」 気づいたら俺は大きな声を出していた。おじさんと若者達は一斉に俺を見た。 「たしかに、初期メンバーはキラキラして今のぷてミニの比じゃなかった。でも、今のぷてミニもすごいんだよ!りなちゅんやはーちゃんはもちろんだけど、新メンバーの藤田すみれはバラエティー担当だし福山恵は歌とダンスはまだまだだけど努力家で、深貝夢は癒し系の妹キャラだし…と、とにかく最高なんだよ!」 俺は何かを発散するようにして新メンバーの魅力を語った。 「そ、それはそうだけど…」 若者達のうちの1人がそう答えた。 「昔の方がよかったってみんな言うけど、昔は昔!今は今だ!今のメンバーがどれだけ頑張っているかも知らないで勝手なこというなよ!ぷてミニは確かに落ち目なのかもしれない。でも、だからこそ俺たちが支えてあげないと!応援しないと!それがファンってものじゃないのか?それに今、こうやってぷてミニのイベントに参加しているのは、まだぷてミニを好きだと思っているからじゃないのか?」 気づけば俺の目から涙が出ていた。りなちゅん…君には変わってほしくない。ずっと笑っていてほしい…でも、人も環境も変わってしまう。楽しいときもあれば辛いときもある。だから人には支えが必要なんだ。そう、例えばアイドルにはファンがいるように、応援してくれる誰か、味方でいてくれる誰かがいないと人は生きていけないんだ… 「た、確かにそうだな…その…悪かったよ」 そう言って若者達は切り刻んだポスターを片付け始めた。 「びっくりした。まさか良樹があんな堂々と自分の意見を言うなんて…」 司は俺の後ろでそうつぶやいた。  それからというもの俺はぷてミニのファンの間で有名人となってしまい、ライブや握手会に行くと多くのファンの人が俺を見た。 「あのときの良樹さんの演説、感動しました!あの、これ、受け取って下さい!」 挙げ句の果てには女の子から花束やら手紙やらをもらうようになった。 「イケメンっていいよなぁ。ちょっと目立っただけですぐ注目されるんだから」 後ろで小松さんが皮肉っぽく言った。
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