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旅人よ...
君の言った通りだろう?僕はここで倒れて終わるんだ
負け犬たちは言うだろう?僕はここで死んで終わるんだ。
どこまでも広がる青い空は、目の前の荒野を酷く映えさせる。
両脇には小高く長い丘がどこまでも続いていて
僕はその草原の中に一人立つ。
後ろの景色は何も覚えていないから、振り向くことはもうできない。
それでもどうしてだろう、足は前に進もうとせず、僕はただ立ち止まって目の前の景色を眺める。
ゴールなんてない、スタートもなかった気がする、目指したい場所もない。
それはまるで人生で、昔は白いワンピースに身を包んだ少女が僕の前に立っていて、振り向きざまに僕を挑発していたような気がするけど、もうその影すらどこにも見当たらなくて、本当は幻だったんじゃないかと思ったけれど、思い返してみれば彼女が先にどんどん歩いていったような気もするし、僕が追い越したような気もするし、やっぱり幻だったような気もする。
どこまでも広い大地が、僕の心をつんざいていく。
「僕」とは何だろう?彼女ら彼らとは何だろう?
深呼吸をしようとしても胸いっぱいに広がった不安と焦りがそれを邪魔してくる。
息を吸っても心臓は早いままで、吐いても僕の孤独や切なさは出ていきはしない。
体はボロボロなのに、たくさんの別れの記憶が僕を情け容赦なく殴り続ける。膝をついていないのがやっとだ。かつての友達も恋人も、そして家族も今はもう遠くにいて、もう見えないほど遠くを歩いている。昔あった情熱とか希望とか魂とかは僕を置いて一目散に逃げて、多分そのあと死んでしまった。もう一度手に入れたくてもそれは不可能で、でも夢には出てくるものだから本当にタチが悪くて、嫌な気分に苛まれる。死にたいって気持ちは湧いてこない、でも生きたいっていう気持ちもない。
ならば何のために生きているんだろうか、でも考えているということはきっと疲れて言葉じゃ表せない現実の僕の「生」を無視しているはずからこの質問は馬鹿な質問だと思った。
昔言われたたくさんの言葉を思い出して、一つ一つを丁寧に心にしまって、忘れてしまいたいと星に願っても、真昼間の空では見えないから、諦めて笑って誤魔化す。
でもお腹は空くし眠くはなるしオナニーはしたくなるから、僕はとりあえず何か生きる目標を探そうとする。
でも全てが空虚さを前提としていて、生きていることにそもそも意味なんてなくて、それは一見酷く絶望的に感じるけど実はそんなことなくて、ただ人間が傲慢なだけなんだ。狐がウサギを狩るのも、クマがシャケを食べるのも、風がエルクの頬をなでるのも、木々が揺らめいて誰かが悲しくなるのも、ロックンロールが死んだのも意味なんてなくて、ただ「そうなった」だけなんだ。だからそこに人間のしょぼい言葉を使って勝手に自分の生とか世界の生とかを記述して、それで自分の「使命」とか言ってありもしない「責任」とか「自我」とかそういうものを作り出そうとすることは本当に愚かで救いようがないんだ。
だから僕は考えることをやめた。意味を見出すことをやめた。生きることをやめた。
そしたら僕は心底海が見たくなったんだ。
この荒野に今自分がどうしているかとか、どこからきたのかとか、この道がどこに続いているのかとか、そんなことはもうどうでもいいだろう。
海だ、海なんだ、視界いっぱいに広がる海が見たいんだ。
それは願いとか意味とか祈りじゃなくて、「そうしたい」っていう欲望とか夢に近い代物で、それが誰のせいかはわからないけど、とにかく僕をどうしようもなく前に前に進めようとするんだ。
キリスト教では海は何のモチーフだっただろうか、何のシンボルだっただろうか。でも僕は別に海を見て心が救われたいわけじゃないんだ。僕は別に困ってないし、絶望してないし、頭の中で生きることについて考えることをやめて、それが「生きることをやめること」だと思っていただけだから別に死んですらいないんだ。僕はそこらへんに生えてるたんぽぽと一緒で、別に「雑草」だとか言われても何の関係もなく生きているんだ。
言葉よりも意味よりも神様よりも、僕はこの星に先に生まれたんだ。
そんな気持ちが、きっと僕の内側から始まっていうんだろう。海を見に行きたいって。
どこまでも続くこの荒野の果てに海があるのだろうか。でも地球は七割海なんだから必ずたどり着くはずだ。いや、そもそも僕が歩いているこの場所は地球なのか?地球によく似た星じゃなくて?でも、ここで立ち止まっていたら海は見えないから、僕はゆっくりだけど歩き始めた。海があったらいい、なかったらいいや、死ぬだけだ。いつか昔荒野の中で見つけた馬の腐った死体を思い出す。臭くてハエがたかってて骨が剥き出しで、なぜかそんなひどい状態でとても幸せそうだった。その馬がどこからきたのか、どこへ行こうとしていたのかは知らないけど、でも僕はああやって旅の途中で朽ち果てたいと思った。だから海が見えなくてもいいんだ。多分もう僕はすでに海を見ているから。この歩みが、何だかもうすでにゴールのような気がするから。目には写ってないのに、心いっぱいにそれは広がっていて、ワクワクドキドキして、僕は心のずっと奥の方から楽しいから。夢が叶いっぱなしなのはいいことだと思うんだ。
少しだけ振り返って、人を傷つけた記憶とか犯した罪の墓標を一瞥した後、道端に咲いている名前も知らない花が僕を見て笑っているような気がしたから、僕はそれを摘んで胸ポケットに差し込んだ。
さっきまで枯れていると思っていたそれは蕾で、気づいたらそいつは元気に咲いていた。
笑って、それから僕はこの花に海を見せてあげようと思った。
花が枯れてしまう前に、暖かい潮風を感じさせてあげよう。
それからのことはわからないけど、今はそうしたいんだ。
だから、だからどうしよう。そうだ、走ろう。馬鹿みたいにペースなんて考えずにガムシャラに走ろう。
きっとすぐに息が切れて立ち止まってしまってしまうけど、今は酷く走りたい気分だった。もうあの子には会えないだろうけど、僕の道は間違っていなくて、生きていることが素晴らしすぎるんだ。
少女少年少年少女よ、歌おうじゃないか!
馬鹿野郎は僕の後ろをずっとずっとついて回るなら、馬鹿野郎とワルツを踊れ!
辛くなったら逃げるよりそんな世界ナイフを持って全部全部壊しちまえ!
そうして僕は胸に咲いた花を大事にしながら、一息ついてから走り出す。
風はいつだって向かい風で太陽な眩しいけれど、僕はまだまだ生きているから、世界は優しい場所だと思った。
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