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さくらの思い
さくらは上着をゆっくり脱いで
バッグの上に重ねておいた
俺は妙な胸騒ぎで
心臓の音がうるさかった
「健太郎が何を言いたいのか
見当がつかなくもない
恭一さんの事・・・かな?」
なんともストレートに
その名前を出した
俺は小さく頷く
「黙っててごめんなさい」
彼女は呟くように話を続けた
「早く言わなきゃ
早く言わなきゃって思ってた
だけど
なかなか言えなかった・・・
君の事を傷つけてしまうだろうから
何ていえばいいか分からなかった
私たち
よりを戻しました」
さくら・・・何言ってんの?
俺に
そんあハキハキとしっかりと・・・
そんな事
どんな言い方だって同じ
傷つくに決まってる
さくらは躊躇った割には
潔く言った
「より戻したの?
いつ?」
ふり絞る声で聞く
「今年の初め
彼からメールがあって
”会いたい”って・・・」
俺は前のめりになって
「”会いたい”って言われて
会いに行ったの?
”会いたい”って言われたら
彼氏(俺)がいても
元カレ(兄)に会いに行くの?」
さくらは困った顔で
「・・・好きだから・・・」
彼女の言葉が刺さる
なんだその純粋な言葉
破壊力はとてつもない
「どういう事?
兄貴とは終わったんだよね
好きだからっておかしくない?
理解ができない」
「恭一さんが好きなの
私、彼の事が好きなの
忘れられないの
だから
彼の方から”会いたい”って言われて
求められたら
それが気まぐれだったとしても
もしかしたら・・・っていう小さな期待を持ってしまうの」
さくらはすぐに泣く
いつだって泣く
やはりこの状況
彼女はポロポロ泣く
泣きたいのは俺なのに
「兄貴とまた
付き合ってるんだ・・・」
「一応・・・会ってもらえてる
彼女は他に居るけど・・・」
「は?どういう事?
意味わかんねぇ」
「私と別れるきっかけになった彼女は
転勤で遠距離恋愛中で
お互いに忙しいから
今までみたいに
なかなか会えないらしくて
だから・・・時間があるから・・・恭一さん
私に連絡くれてね」
「それって・・・」
さくらは真っ赤にした目で
こちらを見て微笑み
「そう
本命ではないみたい」
俺は呆れる
そんな清々しい口調で言うなよ!!
「よりが戻ったって言っても
付き合ってるわけじゃないよ
でも
もしかしたら
側に居れたら
近くに居ることができたら
”結婚するならさくらかな”って恭一さんが思ってくるかもしれないってね
今は一番でなくてもいいの
好きだから」
なんだその思い
俺は置いてけぼりか?
気持ちが悪かった
吐き気がした
「俺、俺が馬鹿だから
気付かないって思ってた?」
さくらは首を横にふる
「恭一さんと今の彼女の事を知っている人に見られたら
まずいから
誰にも会わないように
彼の家で会っていたから
ご両親から
いつか聞くだろうなって思ってた」
「だよな・・・普通・・・だよな・・・」
「それでも
そういう形で
君に伝わるだろうとは思っていたけど
それでも
私は
そうやって
恭一さんの実家に出入りできること
ご両親公認で泊まったりできることに
優越感を持っていた
今の恭一さんの恋人は
まだ
家には来たことも無いようだったから・・・」
「バカなの?」
「えっ?」
「さくら・・・馬鹿なんじゃねーの?」
さくらは下を向く
「かも・・・しれない」
認めた
簡単に認めた
何の脈絡も無く放った
俺の精一杯のさくらへの悪口
子供じみた悪口を
すんなりと
この時間は何なのか?
今の俺の頭は
全く散らかったままで
頭をクシャクシャにかき乱し
抱え込み
さくらから目を逸らした
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