お弁当箱

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結局息子は写真家になりたいと言い専門学校に進む事になった。 話し合いをしている時も先日の息子の言葉が頭から離れない。息子を認める、信じる、私の物差し…。確かに私の中で18才の息子はずっと子供のままだったかもしれない。娘は自分の時を思い出し、なんとなくだがこの年の時はこうだったと、わかりやすかったからそれなりに接する事が出来た。 夫には相談をしていた。しっかり将来を考えていた息子にとって私は受け入れられる様な母親とは思われていなかったのだろう。 あれから何となく息子には遠慮がちになり距離が出来てしまっていた。 「お母さん!明日でお兄ちゃんお弁当終わりだね」 亜子の言葉にはっとした。そうだった…。 いつもより少し早く起きてお弁当箱を並べた。最後だからではなく、いつも通りのお弁当を心を込めて作ろうとお弁当箱を見つめた。 牛肉の時雨煮をご飯に乗せ、横にウインナー、卵焼き、卯の花和え、隙間に彩りでブロッコリーを小さくひとつ。 積めながら涙が出た。中学は注文式の給食もあったが大樹はアレルギーもあり毎日お弁当を作った。具合が悪くてもお昼が無い訳にはいかない。1日も休まずにあれこれ考え、蓋を開けた時の大樹の顔を想像しながら作り続けた。それも今日で終わり…。 大樹の最後のお弁当箱の蓋を閉めた。 大樹がお弁当箱を黙って鞄に入れ「行ってきます」と出て行った。 今日は遅刻するよ!も何も言わず 「いってらっしゃい」だけ言って見送った。
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