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廊下の真ん中に、男性が一人立っている姿が見えた。身体が左右にフワフワと揺れている。
俯いているため顔が良く見えない。黒い霧のようなものが、その男性を取り巻くように纏わり付いている。
そのせいで、男性だけが異様に強く陰っているように見えた。
でも、髪型や体格の輪郭で、六七五号室の加藤さんだと分かる。
動けないはずの加藤さんが、どうして廊下に一人で立っているの?
骨折しているはずの両手首と両足首はどうしたのか? 入院衣の裾から、手足ではなく蛸の足のようなものが、うねうねと出ている。シルエット越しからでもはっきり分かる。
加藤さんは、ゆっくりと、音も立てず顔を上げる。
「ひぃぃっ!」
私は思わず声を上げてしまった。最初に見えたのは、私の額にあるものと同じ真っ赤な目玉だった。こちらを睨んでいる。
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