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廊下には、気を失って倒れている加藤さんがいた。私は駆け寄り声を掛ける。
加藤さんの顔色が、以前よりずっと良い状態になっていることに気付き安堵した。
「妖怪はどうなったの」
私はふと衣蛸がどうなってしまったのか気になった。
「このおじさんが妖怪だよ。妖怪化していたんだ。きっと妖怪になってしまうほどの辛いことがあったんだね」
私は頭の中で一つの疑問が浮かんだ。
「妖怪って、元は人間なの? それ自体で存在しているのかと思ってた……」
「そういうの信じる派?」
「私、幽霊とか信じる派なの。でも加藤さんが妖怪だったなんて、信じられない」
「そのおじさん自身は人間だけどね。時代によってその現れ方は様々なんだ。最近だと、自分の人生に思い悩み極度に打ち拉がれると、心の防衛本能が働いて妖怪を呼び寄せる人がいるみたい」
私はこの人の云っていることが、なんとなく解るような、解らないような、そういう気持ちになった。でも何故か頷く。
「幸せか、不幸かは、その人の見方次第なんだ。このおじさんは、これから幸せになれるよ。僕がそうおまじないをかけておいたから」
その言葉を聞いて、私は加藤さんを見つめる。本当に、心の底から幸せになって欲しいと思った。
加藤さんだけでなく、病院に来るということは、痛い思いや辛い思いを何かしら持っている。
そんな人たちを一人でも多く幸せな状態へ戻してあげたい。そんな想いを、胸の奥で強く噛み締めた。
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