名も無き花

3/21
前へ
/283ページ
次へ
 看護大学を先月卒業した私は、田舎町では唯一の大きな総合病院である『前利(さきと)病院』に、看護師としてその年の四月に配属された。  私は坂之上(さかのうえ) 美雪(みゆき)、ピチピチの美人ナースなのである。  ちなみにお母さんが、「看護師の制服を着ると、美人に見えるわねぇ」と云ってくれたから、ナースなのである。  その時のことを思い出し、私は顔をニンマリさせる。  ところが、そんな私の浮かれ気分も、新人研修でバッサリ切り落とされることになる。  新人研修で、私の指導係になってくれた先輩から聞いた話だが、実はこの病院、以前から変な噂があった。若い女性看護師の連続変死だ。  死亡した人たちには、身体中にドーナツ状の丸い痣が残っていた、と訊いた。  殺人であることは間違いないらしいが、どうやって殺されたのか、何故殺されたのか、未だ不明なのだ。犯人も捕まっていないと云う。  この話を聞いて以来、私は正直びびっている! 空耳だと分かっていながらも、らしき音が聞こえるのだ。  そして、誰かの視線を感じる。鋭く冷たい、一つだけの真っ赤な目。おでこの辺りにそんなイメージが浮かぶ。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加