名も無き花

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 ある日のことである。ナースステーションの受け付けに、一人の若者が訪ねてきた。年配の受付嬢が声を掛け、受け答えをしている。 「お湯? それなら、そこの角を曲がった先に飲料コーナーがあってね、そこに給茶器があるからそれを使ってくれればいいよ」 「それで、お湯もでますか?」 「大丈夫よ。お茶とお湯と冷水が出るから」 「分かりました。ありがとうございます」  その青年は、淡いブルー色のカッターシャツに、ブイネックのベストを着ている。下はデニムで裾を折り曲げ、スニーカーを履いていた。  背中には小さめのリュックを背負っている。見るからに今風の大学生だ。整った顔立ちだけど、少しおぼこさも感じる。  どうやらお見舞いで訪れたようだ。手には果物の入った籠を持っている。赤い林檎に紫の葡萄。  ではなく、トマトと茄子? それにメロンと思わせ緑色のキャベツ。他にもある、何故野菜!  きっと農家なのだろうと判断し、特に気に止めることもせず、私はステーション内に入った。  またすぐにナースコールが鳴り、六七五号室に向かった。
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