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四人部屋の病室には、加藤さんの他に二人入院している。加藤さんは入って右側のベッド。
左側には三十代の男性、バイクで転倒し肋を骨折している鑑さん。
そして窓際の左側には、昨日から入院を始めた井上さん。
二時間おきに患者さんの様子を見るのも、看護師の仕事である。三人とも容態は安定しており、特に対処することはなかった。
最後に加藤さんの様子を確認し、カーテンを締め病室を出た。
ナースステーションまでの廊下を移動する途中、頬に冷たい空気が伝う。私はドキリとする。
誰かに軽く触れられたような気がしたからだ。そしてあの怖じ気立つ感覚が蘇る。
ヒィ ! あの嫌な感じだ……。
動きを止め、恐る恐るうしろを振り返る。T字路の突き当たりにある、トイレの前に鑑さんがいた。
鑑さんは私を見ている。怯える私を見ると、彼はうしろを振り向く。トイレを見るとまた振り返り私を見る。
自分で自分の顔を指差し、こう云った。
「おれ?」
私が、恐怖心に満ちた眸で睨んでしまったことで、鑑さんに自分のことだと勘違いさせてしまったようだ。
「あ、いえ、違うんです。なんでもありません」
ゾクッとする不気味な真っ赤な目と、氷のように冷たく冷酷な視線を確かに感じた。
鑑さんでないことは分かる。たまたま居合わせただけだと思う。
私は怖くなり、ナースステーションへ小走りに戻った。すると、私の顔を見た先輩が妙なことを云う。
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