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「美雪ちゃん、おでこどうしたの? 切れてるわよ」
切れてる? 私は傷口を軽く触る。
確かに、真横にみみず腫のように膨らみがある。
「あれ? どこかでぶつけたかな?」
傷の程度を診るため、洗面所へ行くことにした。
「先輩、すみません。ちょっと、おトイレ行ってきまぁす」
洗面所の鏡の前に立ち、前髪を持ち上げる。鏡に映る自分の額には五センチ程の切り傷があった。
傷口は閉じており、少し膨らみがある。怪我をしてから随分時間が経過している状態のようだ。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。遠目で見ても非常に目立つ。
不細工だ。絆創膏を貼っても目立つな。何か良い方法はないか、もう一度鏡に顔を近付ける。
「あれ?! やだぁ、傷口が少し開いてき……きゃァァァー!」
突然、額の傷口がぱっくりと開いたのである。真っ赤に充血した皮膚下が露に見える。
「うぅわ、きも! 何か目みたい」
そう思った瞬間、充血部は球状になり、左右にぐるりと回転した。縦長をした鋭い瞳孔が現れ、私を睨み付ける!
「ぎゃアァァ!!」
私は、病院中に聞こえたのではないかと思うくらい大きな声で叫んでしまった。
反射的に後退りした勢いで、うしろの個室の板にぶつかりしゃがみ込む。
腰が抜けて動けない。しゃがんだことで、鼻から上が鏡に映っている。
突如顕現した真っ赤な目。見覚えがある。いや、見たことはないが、頭の中でイメージとして浮かんでいたものと同じだ。
見るだけで、命が切り刻まれていくような鋭く冷酷な視線。その稈ましい目が私を睨み付けている。
見たくないのに、両目を固く閉じても三つ目の瞳に映る映像が頭の中に流れてくる。
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