蜘蛛の糸カーディガン

　「心正しき者が羽織れば、その者に幸運をもたらす物がポケットの中から出てくる。しかし心悪しき者が羽織れば、その者に災いをもたらす物がポケットの中から出てくる」

　3年前に聞いたカーディガンの言い伝えが、頭によぎる。
　いやまさかね、と思ったしゅんかん。
　ドロボウがさけび出した。
　「ひっ、な、なんじゃこりゃあ！？」
　1匹、2匹、3匹と……ポケットの中から、ウジャウジャと何かがはい出てきた。
　クモだ。クモがたくさん、ドロボウにおそいかかっている。
　「や、やめろっ、来るなぁ！　あぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
　もがいて払っても、クモは出てきて出てきて。ドロボウはやがてピクリとも動かなくなった。
　ついに限界が来て、あたしもさけんで、家を飛び出した。
　その後のことは、よく覚えていない。
　後から聞いた話だと、あたしは道ばたで気絶して倒れてたみたいで。そこを通りかかった近所のおばさんが見つけてくれて、お母さんたちに連らくしてくれたらしい。
　お母さんたちは早く帰って来てくれて、あたしはあの夜見たことを全部話した。
　お母さんたちは、いっしゅん顔を凍りつかせたけど、それからすぐに、
　「わかった、ありがとうね話してくれて」と言って、おでこにキスしてくれた。