いつものチョコ

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「沙織、ないんだ。チョコが、カバンの中、どこ探してもないんだ。俺、落としちゃったのかな? ひょっとして、スリに盗まれたのかな? 沙織の愛の証を盗むなんて許せないやつだ。」  夫の聡介が、慌てた声で電話をしてくる。  今日はどんなチョコがカバンに入っているのかとニタつきながら、チョコを探していたのだろうか。そんな間抜けな聡介を想像しながら、沙織は意地悪な笑みを浮かべる。  「え、期待してたの? 喜んで食べてたの? いつも何も言わないから、いらないのかと思って、今年はやめたのよ。」    今日は、バレンタインデー。女の子が男の子に愛を告白する日。自分たちのように夫婦になった男女の間でも、愛を確かめ合う日だと沙織は思っていた。しかし、その思いは、沙織からだけの一方通行ではないかと沙織は疑っていた。  バレンタインデーを目標に、沙織がいつも何ヶ月も前から準備して思い悩んでいたことを聡介は、何一つ分かってないのだと悔しい思いをしていた。
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