いつものチョコ

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 そこで、今年は、カバンに入れるのをやめてみた。  そもそも、聡介がホワイトデーに何かくれたことなど一度もなかった。お菓子メーカーに勤めていて、ホワイトデーを知らないなんてありえないのに。  聡介は、沙織の料理をニコニコして食べてくれる。まずいと言うことはないが、美味しいと言ってくれることもない。否定をすることはないが肯定することもない。そんな感動のない日常の中で、聡介が、バレンタインチョコに心を躍らせているなど夢にも思わなかった。 「昨日、家を出たのに、律儀に今日までカバンの中を探さなかったって、どれだけ、バレンタインデーというイベントを大事にしてるの?  旅先でのバレンタインデーのフライングなんて、誰もみていないのに。」  そう言って、笑いが込み上げてくる沙織だった。 「チョコやお菓子は、俺にとって人生の一部なんだ。今年はないなんて、悲しすぎるよ。」  今にも泣きそうな情けない声で聡介が訴える。 「じゃあ、どうして、毎年、美味しかったとかありがとうとか言わなかったの? 私の方が、毎年、悲しかったわ。」 「ごめん。わかってくれていると思ってた。」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加