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そこで、今年は、カバンに入れるのをやめてみた。
そもそも、聡介がホワイトデーに何かくれたことなど一度もなかった。お菓子メーカーに勤めていて、ホワイトデーを知らないなんてありえないのに。
聡介は、沙織の料理をニコニコして食べてくれる。まずいと言うことはないが、美味しいと言ってくれることもない。否定をすることはないが肯定することもない。そんな感動のない日常の中で、聡介が、バレンタインチョコに心を躍らせているなど夢にも思わなかった。
「昨日、家を出たのに、律儀に今日までカバンの中を探さなかったって、どれだけ、バレンタインデーというイベントを大事にしてるの?
旅先でのバレンタインデーのフライングなんて、誰もみていないのに。」
そう言って、笑いが込み上げてくる沙織だった。
「チョコやお菓子は、俺にとって人生の一部なんだ。今年はないなんて、悲しすぎるよ。」
今にも泣きそうな情けない声で聡介が訴える。
「じゃあ、どうして、毎年、美味しかったとかありがとうとか言わなかったの? 私の方が、毎年、悲しかったわ。」
「ごめん。わかってくれていると思ってた。」
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