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その日から、二人の関係は一変した。
御影が吾妻に話しかけても吾妻の態度はそっけなく、一緒に遊ぶことも一緒に帰ることもなくなった。
それが、クラスメイトから言われたどんな言葉よりも、悲しかった。
次第に御影から話しかけることもなくなれば、接点は何も残らなかった。
端から見れば、ただのクラスメイト。
キーホルダーをなくす前の日常に戻っただけ。
でも、御影の心はそんな簡単に元通りになんてならなかった。
何がいけなかったのかたくさん考えて、それがわからなくてたくさん泣いた。
時の流れに身をのせて、もうあまり思い出すことのない記憶の一端になっていたはずなのに。
まさか大学で再会することになろうとは、想像もしていなかった。
だから嬉しいというよりは、驚きの方が大きかった。
最初はわからなかったけれど、名前を聞いてピンときた。
小学生の頃の面影を見て、御影は確信した。
終わったと思っていた過去が、成長した姿で今、自分の目の前にいることを。
でも吾妻は御影を見ても何の反応もなく、昔話をすることもなかったから。
(俺のこと忘れたのかな。それくらい、吾妻にとっては些細なことだったのか)
悲しくて苦しかった時間を思い出して、御影の胸が痛んだ。
(それとも、もう思い出したくない、口にすら出したくない過去ってことか。だったら俺、相当嫌われてるじゃん)
自嘲するように息を吐いた。
「おーい、御影?大丈夫?」
「え?」
「とっくに講義終わってるけど。なんか後半、うわの空だったよな。ノートもほとんどとってないみたいだし」
室内に残っているのは、いつの間にか御影と吾妻の二人だけだった。
開いたままのノートはまだ書きかけで、黒板には記憶にない文字が並んでいる。
「課題出たの聞いてなかっただろ~」
意地悪く笑った吾妻の言葉は、御影の耳をすり抜けていった。
「お前さ、なんで俺と一緒にいるの?・・・俺の手、振り払ったくせに」
吾妻の瞳がかすかに揺れたところを、御影は見逃さなかった。
動揺したということは、覚えているということだ。
あまりに何もなかったように振る舞うから、もしかしたら似ているだけの別人なのかとさえ思ったほどだった。
でもそんなことはなかった、忘れてなんていなかった。
「覚えてんだろ、昔のこと全部。じゃあなんで声かけてくんだよ。一緒に飯食ったり遊んだり、お前いちいち距離が近いし・・・俺はお前が何したいのかわかんねぇよ」
泣くつもりなんてなかったのに、御影は目の奥が熱くなるのを感じた。
いつからか、気付けば姿を探していたし、名前を呼ばれると嬉しくもなった。
肩が触れるくらいの距離で胸が高鳴るのは、他の誰かでも同じではない。
(俺、からかわれてんのかな。それとも罪滅ぼしのつもりか・・・)
どちらにせよ、これ以上何か言葉を発したら、涙がこぼれてしまいそうで。
口を固く結んで堪えている間に、そばに立っていた吾妻が向かいの席に腰を下ろした。
見上げなくても視界に入る吾妻の表情は、真剣だった。
「チャンスだと思ったんだ。やり直すチャンス」
吾妻の声は少し震えていた。
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