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「そうか……そうだったな、どの道オレはもう『残り数日』の命だったんだ……」
身体が重いのと、あちこちがズキズキ痛む理由がやっと分かった。『どうせ助からない命だから』と、癌が転移した胃腸や腎臓などを事前に全摘出したのだ。
「はは……凄いな。ここがオレの目指していた惑星12365-bか……。何だか、地球に似てなくもないか」
風が吹いているのだろう。時折、フッ……と船体が揺れる。
「奇跡……まさに、奇跡だよ」
誰に言うでもなく、呟く。
ここでこうして『生きている』のは、予測のつかない大航海を何一つ致命的な問題なくクリアした証だ。それは奇跡としか言いようがない。
冷凍保存されたオレの身体は宇宙ステーションに送られ、そこから『最新型』の対消滅エンジンを搭載した恒星系間ロケットに移送。そこから光速の5%まで超加速し、10万年の長旅に就いたのだ。
長い旅の途中は何があるか分からない。流星群にでもぶつかれば、大きなダメージを受けて『それまで』になるだろう。いや、被害を受ける場所によっては砂粒以下の塵であっても致命傷になる。
また、航海が無事でも搭載したシステムが10万年という時間を越えて作動するという保証は何処にもない。外宇宙を飛ぶ有害な宇宙線やガンマ線バーストが直撃すれば、メインコンピュータが破損してジ・エンドだ。
問題はそれだけではない。
折角辿り着いた先の惑星12365-bがどういう状態なのか、正確な事は誰にも分からないのだ。大気圧がどの程度あって、大気圏突入が上手く行くのかどうか。そもそも降り立つのに適した地上があるのかどうか……。
もっと言ってしまえば到達した先に『先住生命』がいれば、その時点でこの計画は破棄される事になっていた。
そして、最大の難関である10万年前の冷凍人間を意識のある状態にして起こすという前代未聞の挑戦……。
そうした数多くの『無理難題』をクリアして、初めてこの壮大な計画は『完遂』となる。
後は地球から持ち込んだ嫌気性のバクテリア類をこの星の海に与えてやれば、やがてそれが増殖・拡散してこの星の環境に合わせた原始生命へと進化していくだろう。
そしていずれは生命進化の果てに知的生命体を生み出すに違いない。それは死の惑星に咲く『生命の花』。
その壮大な夢こそが、『スター・シード』計画である。
ここと同じ事は候補となった10の惑星に対して行われているはずだが、その中で最も遠いのが12365-bだった。
「はは……参ったな」
壁に預けた背中がズルリ……と滑る。
「まさか成功するとは思ってなかったぜ……。ちくしょう、死に損ねたか……」
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