いとしすぎてすれちがい

1/1
205人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

いとしすぎてすれちがい

 ノンケの崇裕と付き合ってもう直ぐ2年目。我ながら、よく続いたと思う。でも……正直そろそろ潮時なのかな、とも思うんだ。 「え、出かけんの?」 「ああ、サークル仲間で飲み」  崇裕は財布をケツポケットに突っ込み立ち上がる。 「何だよ……今日は出かけないって言ってたじゃん」 「さっきメール来た」 「あっそ」  一緒に住んでいたって、普段は二人ともバイトばかり。今日は久々に二人揃って休みだったっていうのに、俺のことを置いて崇裕は出て行こうとしてる。  その選択に躊躇いは見えない。 「先寝てて良いから」  そのまま玄関へと向かう崇裕の背中に、俺は耐え切れず言葉をこぼした。 「俺たち、距離置こっか」  “別れよう”とは言えない臆病な俺。  仕方ないだろ? だって俺は、まだ崇裕が好きなんだから。 「……なに?」  崇裕の足がピタリと止まる。 「距離を置こうって言ったんだよ」 「なんで」 「なんでって、今の俺たち一緒に居て何か意味ある?」  二人で住むために少し広い部屋を借りているから家賃が予算より高く、休みの日は朝から晩までバイトバイトバイトですれ違い。  だからって狭い部屋に男二人では、友人たちに怪しまれるかもしれない。  このご時世、幾ら昔よりも同性同士の付き合いを認めてくれる人が増えたとは言え、偏見は根深い。漫画みたいに簡単にはカムアウト出来るような神経を俺たちは持ち合わせていなかった。  だからこそ、二人揃って家に居られる休みは貴重だと言うのに……崇裕と言えばいつも友達を優先してばかりだ。 「今日だって久々に二人揃って休みなのに、何で出てっちゃうわけ? 俺と居たくないならそう言やいーじゃん!」  さっきまで別れることが怖かったくせに、言い始めたら何だか段々腹が立ってきて文句はエスカレートし始める。 「大体、サークル仲間って女の子も居るんだろう!? お前に分かる? 俺と違ってお前がノンケだからって、女の子にまで焼きもち焼かなきゃなんない気持ちがさ!」  ───ゴトッ  そこまで言った時、何故か崇裕が手に持っていた携帯を床に落とした。 「いま、なんつった?」 「ちょ、崇裕携帯……え?」 「慶永、お前……ゲイなのか?」  は?  余りの驚きに俺はぽかんと口を開けた。 「いや、崇裕……俺ってお前の恋人だよね? 俺たち、付き合ってんだよね?」  え、まさか俺たちそこからすれ違ってんの? 「付き合ってる。当たり前だろ。でも俺はゲイじゃない」 「あ、うん……」 「お前もそうじゃねぇのか? まさか……ゲイなのか……?」 「お、俺……女の子は好きになれませんけど」 「はぁあぁああぁあっ!?」  崇裕が物凄い怖い顔でこちらへ引き返して来た。 「っンだそれ!! じゃあお前なにか? 俺だから付き合ってんじゃなくて、元から男が対象だっつーのか!?」 「え、え!? ま、まぁ……そういう事になるのか……な? でっ、でも俺は崇裕しか」 「はぁあぁあああぁあっ!?」  なに、  何なの、  俺、ゲイだからって嫌われちゃうのか……??  思わず泣きかけたその時。 「あぶねー!! 超あっぶねぇー!! 何でそういうことをさっさと言っとかねぇんだよ! マジかよ、女だけ遠ざけときゃ良いと思っておまっ……こっわ!! 今までどんだけ慶永野放し状態にしてたんだよ俺ッ!!」  え、野放し? 「全然女っ気ねぇから“良く出来た俺の嫁♡”とか思ってたのに! ンだよ牽制すべきは男かよっ!!」  ちょ、嫁!?  ※因みに俺には女友達が殆んど居ません……。 「おい慶永」 「はっ、はぃいっ!?」  目の据わった崇裕が恐ろしくて、思わず声が裏返る。崇裕はおもむろにテーブルの上へ裏面が白紙の広告を広げた。 「今すぐこの紙に付き合いのある男共の名前を全部書け。友達からバイト先の奴から全部だぞ」 「え、名前!?」 「信じらんねぇ〜、有り得ねぇ〜、マジ怖ぇわこの二年間。慶永テメェまさか浮気してねぇだろうな」 「してねぇよ馬鹿っ!! つか、崇裕お前飲み会は……」 「あ、もしもし俺。今日無理だから。は? 今それどころじゃねーんだよ。(ブツッ」  電話の向こうで誰か喚いていたけど良いのだろうか。さっきまでは出かけて欲しくなかったのに、今は何故だか出かけて欲しい……。 「ちょ、本当に名前書くの? 全部?」 「全部。マジで浮気してねぇだろうな」 「してないってば!!」 「あ"!! お前もしかして俺以外と付き合ったことっ」 「有りませんっ!!」 「……じゃあ、お前のケツの割れ目に有る黒子知ってんの、俺だけだな?」 「ケツの割れ目!?」  何それ、俺そんなところに黒子あるの!? 初耳なんだけど!! 「突っ込む時に左右に割るとあんだよ! エッロい場所に! 『舐めて下さい』的な位置に!」 「ぎゃぁあっ!!」 「まさか見せたのか!? 誰に見せたっ!」 「馬鹿かっ! ンなもん多分両親しか知らんわ!! ……あ、兄貴も昔はオムツ替えてくれてたんだっけか」 「……殺す」  兄貴の名前も書かされる羽目になった。   ◇  距離を置こう、だなんて言ってた俺が遠い昔に思える。(実際は十数分前だが……)  壁には俺の友人やらバイト先の同僚やら、約十数人の男の名前が書かれた広告が貼り付けられていた。 「二人の時間を蔑ろにしてたのは謝る、ごめん。お前に甘えてた」 「いや、うん……もう良いんだ。誤解だったって分かったし」  こんな風に、ちゃんと嫉妬したりしてくれるんだって分かって、実はすげー嬉しいし。  思わずニヤついてしまう俺の口角がひくりと動いた。  やっぱ、俺は崇裕が大好きだ。 「一応、両親の名前も加えとくか」 「いい加減にしろっ!!」 END
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!