第二話 奪われた唇

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「おいおい、学校じゃあないんだから、何でも面倒見てもらえると思ったら大間違いだぞ」  戸田がやれやれと言った表情を見せた。 「だって私は新入社員ですよ」 「だから訊くことができるんじゃないか」  どうも戸田と考え方が根本から違っているみたいだ。 「訊くことができるって、そのうち訊けなくなるんですか?」 「じゃあ訊くけど、お前は今日の仕事で、資料を渡しただけでやってくれる相手と、細かく説明しなきゃいけない相手とどっちに頼む?」 「そりゃあ、資料を渡しただけでやってくれる相手です」 「なんだ分かってるじゃないか」 「そのぐらい分かります。でも新入社員がちゃんとできるわけないじゃないですか」 「だから、こうやって試してるんだ。最初から説明したら、他人(ひと)の資料を読んで考えたりしないだろう。だから、こうやってどこまでできるか試すんだ」 「もう試されてるんですか?」 「当たり前だ。給料もらってるんだろう。二人でやる以上、一人がやったときより当然成果も大きいものを求められる。依頼してきた相手に自分の考えを話して、なるほどそういう視点があったかと、逆に気づきを与えるぐらいじゃないと価値がない」  なんとなくだが、真唯にも戸田の言うことが分かって来た。  同時に求められてることが難しい気がして、不安になった。 「難しいですね」  真唯は思わずため息をついた。 「難しいわよ。でも来年考えたら、そのぐらいのパフォーマンスは見せないと、契約してもらえないわよ」  真唯はようやくこの会社の厳しさが分かって来た。就職活動中のOB訪問では新入社員ときが一番良かったとか、のんびりしていたなどとよく聞いたもんだが、どうもこの会社にはそんな時間はないらしい。 「まあ、戸田君は同期で最初に、アシスタントからアカウントプランナーになったから、自信もあるのよね」 (そうか、間宮さんと戸田さんは同期入社なんだ)
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