第二話 奪われた唇

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「よく言うぜ、先輩社員を追いだした奴が」  戸田が薄ら笑いを浮かべながらビールを飲む。 「えっ、何ですか先輩を追い出したって」  私のテンションは一気に上がった。  戸田と間宮が顔を見合わせる。 「あんたが言い出したんだから、ちゃんと説明してよ」  間宮がめんどくさそうに説明を押し付けた。  戸田は苦笑いを浮かべて話し始めた。 「いや、うちではよくある話なんだが、間宮がうちのチームでは大きなプロジェクトのアシスタントに選ばれたんだ。ここで認められたら、翌年はアカウントプランナーで契約じゃないかと言われていた。ところがだ」  ここで、戸田は間宮の顔を見る。間宮は無表情だ。 「そのプロジェクトのアカウントプランナーが酷い奴でな、間宮の意見を全然採用しないで提案を進めて、結局コンペで負けたんだ。先方から提示された不採用理由が、ほとんど間宮が指摘したことだったんだが、逆に負けた理由を間宮のせいにしようとした」 「なんだかテレビドラマみたいですね」  真唯は話を聞いて楽しくなった。  ドラマならここで救世主が現れて、ヒロインを救い恋に陥る。 「まあ、うちではプロジェクト会議の内容は全て記録されるから、すぐにそいつが原因だと分かるんだけどな。それが不満でそいつはキャリア入社したその年に辞めていったよ。普通の会社なら先輩社員に忖度するもんだとか言い捨ててな」 「なんかかっこ悪いですね」 「ああ、うちは厳しい代わりに、公平でもある」 「何が公平よ。そいつのおかげで私は実績が上げられずに、今年もアシスタント契約だった。あんたはいいじゃない。椋本(くじもと)さんのプロジェクトで大成功だったんだから」  間宮は少し酔ってるみたいだ。口調がぞんざいになっていた。
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