第二話 奪われた唇

6/7
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
「で、秋山は今付き合ってる彼氏とかいるの?」 「へっ、私ですか?」  今、付き合ってる廉也(れんや)のことを言おうか言うまいか迷った。廉也は地方公務員上級試験にパスして、今年埼玉県庁に入庁した。大学のゼミの中では特別に優秀で、紹介しても恥ずかしくはない。だけど、この会社の人たちから見れば、公務員は価値観が真逆の職業だ。馬鹿にされそうな気がして言えなかった。 「いません」 「へー可愛いのにつきあってないんだ。理想が高いの?」 「ちょっと、そんなことを根ほり葉ほり聞かないの」  間宮が助け船を出してくれた。 「そうですよ。仕事に関係ないことは言いたくありません」  真唯も調子に乗って拒否した。今思えばここで戸田に火をつけたのかもしれない。  その後は、職場内の恋愛関係とか、不倫疑惑とか他愛はないが、真唯の大好物な話が続いた。真唯は調子が出てきて結構飲んだ。 「さあ、明日また忙しいから帰るよ」  間宮がお開きを宣言した。  真唯は酒に酔って、少し足に来ていた。外に出るときも足元が怪しい。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!