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第3話 二番目の女
タクシーが新居に着いた。利信の両親が二人のために買ってくれたマンションだ。都心へのアクセスも便利だし、二人にしては広めの六八平米と気にいっている。
これを与えた見返りというわけではないが、利信のお母さんがちょくちょくやって来るが、真唯は別に気にならない。来るときは手土産を欠かさない人だし、手柄のように掃除や洗い物をしてあげたと話されても、元来そんなことを気にする神経も持ち合わせてない。むしろ自分の両親がやって来て、あれこれ言われる方が嫌だった。
「病院からの電話、行かなくていいの?」
「うん、一応処置は頼んで置いたから」
その割には落ち着かない様子だ。
「気に成るなら行って来たら。私は構わないわよ」
「でも結婚式の当日だし」
「そんなことは気にしないで、これから長い二人の生活が始まるんだから」
「そうかい、ありがとう。君が物分かりのいい奥さんなんで助かるよ」
「その代わり、帰ったらたくさん愛してね」
あまり、物分かりの良すぎる女は飽きられる。かと言って、相手が困るほどの要求は嫌われる。大事なのは私たち以外の第三者が聞いたら、そんなことぐらいと言ってしまうレベルの要求を細かく出すことだ。
利信が相手なら、こちらが熱くならずに冷静に判断できる。
利信が出かけてから、今日教会に届いた電報に目を通す。大半が会社の関係者からだ。上の人間は、私がこれで落ち着くだろうと期待しているに違いない。特に感慨を感じることなく見ていたら、戸田からの電報もあった。相変わらずこういうことには律儀な男だ。
戸田ももう四十路を超えた。今年来た年賀状の家族写真では、元から薄かった頭は、額部分が大きく後退して、親父の体を為していた。
今思えば、なぜこんなに夢中になったのか自分でも分からない。
ふっと十六年前の自分に思いを馳せた。
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