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行為が終わって黙っている真唯を気遣って、戸田が優しくキスをしてくる。
そのキスには、タクシーの中でされたときのように、身体がくすぐられるような感覚はなかった。
「何を考えてるの?」
キスした後で、戸田が訊いてきた。左手は真唯の裸の胸にそっと置かれる。
何を考えてるわけでもない。疲れてしまったのだ。
戸田はサービス精神が旺盛で、行為も長かったので、終わった後で真唯はくたくたになってしまった。できることなら眠らせて欲しかったが、戸田が眠る気配はない。もう一度したいのかもしれないが、それは勘弁してほしかった。
「どうして私を誘ったんですか?」
仕方がないから、答えにくい質問をしてやった。
当時の真唯は、それほど多いわけではないが、大雑把なタイプに分類できるぐらいには男を知っていた。
戸田のようなすぐにしたがる男は、なぜしたのか理由を訊くと困るものだ。男である以上、そこに理由はないことぐらいは分かっていた。
ところが戸田は違った。
異様に饒舌だった。
「実は、ミスを伝えに行って会ったときから、これは好みだと思ったんだ」
「それって、一目惚れってことですか」
「それに近いかな」
「見た目だけですか?」
「飲んで話していて、向上心も強いし、頭もいいと思った」
(そうなのかなぁ?)
自分では頑固なところはあるけど、向上心が強いなどと思ったことがないので、びっくりした。しかも、すごく頭の切れそうな戸田から、頭がいいと褒められて、嬉しくなってしまった。
「好きになりますよ」
「なってよ、そうなったら嬉しいな」
(もしかして、結婚とか考えてるのかなぁ。まだ働き始めたばかりなんだけど)
「メアド交換しよう」
「いいですよ」
真唯は携帯のメアドを交換した。
「戸田さんって、一人暮らしなんですか?」
「そうだよ。遊びに来る?」
「行きたい」
「俺も秋山のうちに行ってもいい?」
「来てください。ご飯作ります」
「ありがとう」
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