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戸田は、学生時代につき合った中にはいないタイプの男だった。
そう感じるのは、やはり仕事に打ち込む姿を見ているからだろう。あの厳しさの中に自分の存在を感じてもらったと思うと、居場所ができたような気がして、前向きにのめり込んでしまった。
戸田に寄り添って、ホテルに入る前とは全然違う、落ち着いた気持ちで真唯は眠った。
翌朝、間宮の目もあるから着替えて会社に行こうと、真唯は早く目覚めた。
「一回家に帰ってから出社するね」
真唯はアラームが鳴ってもピクリともしない戸田に帰宅を告げた。
「俺はこのまま出社するから、ごめん寝るわ」
相当眠いのか、戸田は布団から出ようともしない。
真唯は時間がないので、そのまま一人でホテルを出た。
早朝の渋谷は人が少なかったが、それでも駅までの道で人と出会う度に、ホテル帰りだと見透かされている気がして、恥ずかしいと思った。同じ電車なのに一人で返すなんて、これからつき合うにしては冷たいところがあると、真唯は思った。
それでも入社早々、仕事のできる彼氏ができた喜びが勝った。出社するのが、待ち遠しかった。
真唯が始業時間より早く出社すると、意外とみんな揃っているのに驚いた。
その中には、戸田の姿もあって安心した。
間宮は、もう一仕事済ませたような顔をしている。
「おはようございます」
昨夜一緒に飲んだだけに、その後を思うと気まずかった。
「おはよう」
間宮は真唯の顔を見ると、書類をかき集めた。
「今日の仕事はメールで指示を出しといたから、確認してね。それから、これが紙で送られてきた資料だから」
興味がないのか、昨日あの後ちゃんと帰ったかなどの質問を、間宮はしてこなかった。
なんて言おうか迷ってただけに、ほっとする反面、物足りなくもあった。
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