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席に戻っても苦しさは一向に消えない。
思わず携帯で、昨日教えてもらったアドレスに、今日も会いたいとメールを入れた。
待っても待っても携帯に着信サインが出ない。
真唯は諦めて仕事を始めた。
戸田から返信が来たのは、昼休み前だった。
――今日は、用事があるので会えません。ごめん。
全身の力が一挙に抜けた。
ほんの少しの時間でもいいから会えないかと、返信を打とうと思ったが諦めた。自分が夢中になってると思われるのが嫌だったし、しつこい女だと嫌われたくなかったからだ。
仕事が終わって、資料を戸田に送ると、感謝の言葉が返信された。だが、ホントに期待している今日会えるという連絡は来なかった。
私が力なく項垂れていると、間宮が声をかけてきた。
「昨日の疲れ?」
真唯が元気がないのは、間宮が想像していることとは違うが、本当のことは言えないので、声に出さず頷いた。
「昨日はあれで帰ったの? 二件目とか誘われなかった?」
二件目どころか、ホテルに行きましたとも言えないので、「帰りました」と小さな声で言った。嘘をつくのもエネルギーが必要だ。
「そう、タクシーの中で、彼女の話とか聞かされなかった?」
「彼女いるんですか?」
「飲んでる最中も言ってたじゃない彼女の話」
間宮さんは覚えてないのという目で私を見る。
そうだ、思い出した。飲んでるときに彼女話が出た。ただ飲んでるときは、そういう風に戸田を見てなかったので気にしなかったし、キスされて舞い上がってその話を忘れていただけだ。
「誰なんですかね、彼女って」
ばれるかもしれないのに、結構真剣な顔で真唯は間宮に尋ねていた。
「ああ、あの子だよ。私たちの同期の市原紗矢」
間宮が顎で指示した先には、さっき戸田と話していた女がいた。
最悪だった。同じフロアで二股掛けられたのだった。
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