第4話 止まらない恋心

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 戸田に彼女がいることが判明したが、真唯はそれを問いただすことができなかった。  微妙なバランスで関係が進んでいく。  真唯は戸田の部屋に行くようになり、自分の部屋にも招いた。その場合たいてい泊まりとなる。お互いに一人暮らしなので、行動は自由だ。だがたまに戸田と会えない日があった。おそらく市原紗矢と会う日だ。  沙也は横浜に両親と一緒に暮らしている。だから泊まるときは戸田の部屋だ。しかも両親の手前、そんなに回数を重ねて泊まることはできない。  沙也と戸田の仲は入社したときから始まっていた。同期入社十六名中女性が九名、その中で一番美人だったのが紗矢だったらしい。  二人には自分が入社するまでの二年間の歴史がある。  知らないという不安は払いようがない。  真唯は戸田自身の口から紗矢のことが聞きたかったが、入社して三カ月たっても戸田の口から紗矢の名前が出ることはなかった。  沙也は真唯のことにまったく気づいてる様子はなかった。戸田がよっぽどうまく隠しているのか、もしくは沙也自身がその手のことに鈍いのかもしれない。  そのうち、真唯は自分たちの関係を進展させる、ある一つの方法を思いついた。周りに自分たちの関係を気づかせればいいのだ。別に戸田と紗矢は結婚しているわけではない。それどころか二人の関係を知っているのはごく一部だ。  だが、あからさまに就業中にべたべたくっつくのは逆効果だ。成果が次の年の契約に直結する厳しい会社だけに、周りの反感を買って戸田からも嫌われる可能性が高い。  だから、飲み会の場をフル活用することにした。どんな些細な飲み会でも戸田が出る飲み会には参加した。そして必ず戸田の隣の席を確保する。それは一時会でも、二次会のカラオケでも徹底された。
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