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ドアが開いて、戸田が顔を出した。
「ごめん、妹がコンサートで茅ケ崎からこっちに来て、勝手に今日泊まらせてって押しかけて来たんだ」
(えっ、せっかく来たのに入れてくれないってこと)
冷水を浴びせるような戸田の言葉に、それまで高まっていた真唯の心が急速に冷え込む。
「じゃあ、しょうがないわね」
心とは裏腹な言葉が飛び出す。
心の中では、妹に紹介するよという言葉をちょっぴり期待していた。
「ごめん、今度埋め合わせするね」
ドアはバタンと非常な音を立てて閉められた。
「来なければよかった」
駅までの道を帰りながら、後悔の言葉が口に出る。
駅に着くと、既に渋谷行の終電は終わっていた。
帰るとすればタクシーを捕まえるしかない。
真唯は駅前のドーナツチェーン店に入って、コーヒーを頼んだ。
コンビニで買った酒やつまみが邪魔くさい。
幸せな気持ちは消え果てて、悲しみが心を覆った。
しばらくすると疑いが芽生えてくる。本当に部屋にいたのは妹だったのか。
どす黒い気持ちが頭の中を支配していく。
もう、自分の部屋に戻る気はしない。
今ちょうど一時、後五時間も立てば戸田は出勤するはずだ。
出勤する戸田を捕まえて話を聞きたい。
真唯はここで朝まで過ごすことにした。
馬鹿なことをしてると自分でも思う。こんなことをしても何も解決されないことは、頭では分かっているが、この身体を焼き尽くしそうな思いを、一刻も早く沈めたかった。
時間が経つのが妙に遅かった。ウォークマンを取り出して音楽を聴いても、十秒と聞いてられない。携帯を開いて、戸田とのメールを読み返す。愛情に溢れた言葉を見つけると、涙が出て来た。
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