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朝日が昇った。酒も入ってたので、妙に身体が思い。
そろそろ戸田が出勤する頃だ。
目を凝らして道を見ていると、戸田の姿が見えた。急いで店を出る。声をかけようとして凍り付いた。戸田の隣を沙也が歩いていたからだ。
二人の姿が地下鉄の入り口に消えていくのを、黙って見送った。
体中の力が抜けていった。その場に崩れ落ちそうになるのを必死で踏みとどまって、真唯は家に帰った。
その日、真唯は入社して以来、初めて会社を休んだ。
利信が帰って来た。結婚式から職場に直行してさすがに疲れたらしい。
それでも真唯の顔を見るとすぐに抱きしめた。
「幸せにするからね」
耳元で優しい言葉を囁く。
「ご飯食べる?」
真唯は利信のために作った料理を食卓に並べる。
利信は食べながら「旨い」を連発した。
真唯も「ありがとう」と返すが、自分の料理がそれ程美味くないのは、真唯も自覚している。利信の優しさに甘えるだけで、上手く成ろうと努力しないことも知っていた。
満足そうに目を細める利信を見ながら、このままこの幸せに浸っていたい気持ちと、もっと激しく心をかき乱す出会いを求める気持ちが、心の中で渦巻いていた。
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