第6話 思い出の女

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「まあ、いいですけど、今晩はうちに来てもらいますからね」  新型ウィルスが出現してから、瞳と二人で外に飲みに行くことは一切なくなった。一人で部屋にいることも増え、酒の代わりにコーヒーを飲みながら、落ち着いた毎日に幸せを感じたりする。  それでも瞳はときおり自分の部屋への来訪を強要する。行かないと他の女の存在を疑われて面倒なので、気が進まないながらも部屋に行く。自分の部屋に押しかけられることを思えばまだましだ。  有楽町駅から山手線に乗って目黒に向かう。ちょうど目の前で二人分の座席が空いたので、瞳と二人で座る。久しぶりの外出に疲れが出て眠気が襲ってきた。瞳に断って目黒迄のニ十分間目を閉じることにした。  新しい技術や仕事のやり方に渡瀬は貪欲だった。裕二の要求するIT環境をすぐに揃えてくれるし、仕事上の意見もほとんど採用された。  何よりも渡瀬には本音で話せる部下がいないことが悩みだったようで、裕二のことを信頼していろいろ打ち明けてくれた。中でも竹本の期待に応える苦労と、チームマネジメントに障害となる恋愛トラブルは、悩みが尽きないようだった。  それまであまり誠実に働いていたわけではないが、結婚して子供を得たこともあって、裕二もじっくりと仕事に向かう気持ちになっていた。  渡瀬と一体となって仕事に取り組む日々が楽しかった。
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