第6話 思い出の女

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「我がチームの命運を賭けたワールドブック社のコンペで、勝ち抜くことができたのは全力を尽くしたメンバーのおかげだ。今日はみんなの頑張りに敬意を表して、無礼講で祝い酒を飲もう」  裕二は同じ竹本グループの藤瀬チームの祝勝会に招かれていた。藤瀬は昨年まで渡瀬チームのアカウントプランナーだったが、今年プロジェクトリーダーに昇格し、新設チームを編成したばかりの新米チーフだ。年も裕二と二才違いで、上司である渡瀬よりも気楽につき合える存在だ。  藤瀬チームは新設ということもあって、まだまだリソース不足で、大きなコンペでは何かと渡瀬チームから応援をもらっている。裕二もまた、渡瀬からの頼みでマーケットディレクターの立場で、秋山と共にワールドブック社のコンペに参加した。  藤瀬の挨拶の後に乾杯が終わると、若者たちが食料を求めてビュッフェに殺到する。藤瀬チームはチーフが若いせいか、ほとんどのメンバーが二十代だ。三十代に成ってから飲むと食欲が減退するようになった裕二は、ビールを片手にエネルギッシュな若者の姿に目を細める。隣では藤瀬もまた楽しそうに部下の姿を見ていた。 「渡瀬チームと比べると、業務経験は浅いけどエネルギッシュでしょう」  藤瀬は自分の作ったチームが気に入っているようだ。 「あれを見ていると、こっちも元気になりますね」  裕二の前職の会社では、年配者の勢力が強く、若者も年配者の目を意識しておとなしかったので、こうした若者らしい雰囲気は久しぶりだった。藤瀬の言う通り、若干支配的な雰囲気がある渡瀬のチームより、こちらの方が若者本来の姿が出ている気がした。
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